個人がレンタルスペースや民泊を売ると、売却代金は「家具・設備」「営業権(のれん)」などの資産ごとに分けて考え、それぞれ所得の区分が決まります。家具・設備などの売却益は、原則として譲渡所得(総合課税)になり、年間50万円の特別控除があります。ただし、取得価額10万円未満の少額の備品などは事業所得などになります。消費税の課税事業者なら、売却代金に消費税がかかる部分もあります。契約書で売却代金の内訳を決めておくことと、早めに税理士へ相談することが大切です。
この記事は、2026年10月時点の一般的な考え方を説明したものです。実際の税額は、資産の内容・保有期間・ほかの所得などで変わります。申告の前に、必ず税理士または税務署に確認してください。
個人の事業譲渡は「資産を一つずつ売る」と考える
法人なら会社の株式をまとめて売る方法がありますが、個人事業には株式がありません。そのため、個人がレンタルスペースや民泊を売る場合は、家具・家電、内装、備品、運営の仕組みといった事業の資産を、一つずつ買い手に引き継ぐ形になります。
税金も同じように、売却代金を資産ごとに分けて考えます。たとえば売却代金が100万円なら、「家具・家電で40万円、営業権で60万円」のように内訳を決めます。内訳によって所得の区分や消費税の扱いが変わるため、譲渡契約書に内訳を書いておくことが大切です。
資産ごとの所得の区分
| 売るもの | 主な所得の区分 | ポイント |
|---|---|---|
| 家具・家電・機材・内装など(減価償却資産) | 譲渡所得(総合課税) | 取得費は「取得価額から減価償却した後の残り」 |
| 取得価額10万円未満などの少額の備品 | 事業所得または雑所得 | 業務の性質上、基本的に重要なものは除く |
| 消耗品・アメニティの在庫など(棚卸資産) | 事業所得 | 商品として持っていたもの |
| 営業権(のれん) | 内容によって判断が分かれる | 税理士に確認するのが確実 |
国税庁の案内では、機械器具などの資産を売った所得は譲渡所得とされています。一方で、商品などの棚卸資産を売った所得は事業所得です。また、使用できる期間が1年未満のものや、取得価額が10万円未満の減価償却資産(業務の性質上、基本的に重要なものを除く)を売った所得は、事業所得または雑所得になります。
運営の仕組みや顧客基盤などの対価として受け取る「営業権(のれん)」は、取引の内容によって所得の区分の判断が分かれることがあります。金額が大きくなりやすい部分なので、契約の前に税理士へ確認しておくと安心です。
譲渡所得の計算のしかた
家具・設備などの譲渡所得(総合課税)は、次の式で計算します。
譲渡所得 = 売却代金 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除(最高50万円)
- 取得費:家具・設備などの場合は、買ったときの価格から、これまでの減価償却費を引いた残りの額です
- 譲渡費用:売るために直接かかった費用で、仲介手数料などが含まれます
- 特別控除:譲渡所得には、年間で最高50万円の特別控除があります
- 保有期間:持っていた期間が5年を超える資産の売却益(長期譲渡所得)は、特別控除の後の金額の2分の1が課税の対象になります。5年以内なら全額が対象です
計算した譲渡所得は、給与所得や事業所得などのほかの所得と合計され、累進税率で所得税と住民税がかかります。
計算例(架空の数字)
ここからは、仕組みを分かりやすくするための架空の数字による計算例です。
- 売却代金:100万円(内訳:家具・設備 40万円、営業権 60万円)
- 家具・設備の取得費(減価償却後の残り):30万円
- 仲介手数料:10万円
- すべて保有期間5年以内とし、営業権は譲渡所得として扱う前提
100万円 −(30万円 + 10万円)− 特別控除50万円 = 10万円
この例では、10万円がほかの所得と合計されて課税されます。営業権の扱いが変わると結果も変わるため、あくまで考え方の例としてご覧ください。
消費税はかかるのか
- 消費税の課税事業者の場合(インボイスの登録をしている場合を含む):家具・設備や営業権など、消費税の対象になる資産の売却代金には消費税がかかります。売却代金を「税込」「税抜」のどちらで決めるかを、契約の前に買い手とすり合わせてください
- 免税事業者の場合:売却代金に消費税を上乗せして納める必要はありません
- 2年後への影響:個人事業者の場合、事業用の資産を売った代金も、その年の課税売上高に含まれます。売却した年の課税売上高が1,000万円を超えると、2年後に消費税の課税事業者になる場合があります
敷金・保証金と、閉店にかかった費用
- 貸主から返ってくる敷金・保証金は、預けていたお金が戻るだけなので、それ自体は所得になりません。償却で差し引かれた分は、経費として扱える場合があります
- 原状回復や処分にかかった費用は、事業の経費として扱える場合があります
事業をすべてやめる場合の届出
レンタルスペースや民泊が唯一の事業で、売却とともに事業をすべてやめる場合は、税務署への「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出などが必要です。青色申告をしていた場合や、消費税の課税事業者だった場合は、それぞれの届出も確認してください。売却した年の分は、翌年の確定申告で申告します。
法人で運営している場合
- 法人が事業を売った場合、売却益は法人の利益として、法人税などの対象になります
- 会社ごと(株式を)売る場合は、株主である個人が株式の譲渡所得を申告します。株式の譲渡所得は、ほかの所得とは分けて税額を計算する仕組み(申告分離課税)です
どちらの形で売るのがよいかは、税金だけでなく、賃貸借契約や許可の引き継ぎやすさによっても変わります。
見落としやすいポイント
- 住民税や国民健康保険料への影響:譲渡所得はほかの所得と合計されるため、翌年の住民税や国民健康保険料が上がることがあります
- 売却代金の受け取り時期:分割で受け取る場合や、引き渡しが年をまたぐ場合は、どの年の所得になるかを税理士に確認します
- 書類を残す:譲渡契約書、備品の一覧、取得したときの領収書、減価償却の明細を保存しておくと、申告がスムーズです
売却の進め方そのものはレンタルスペースを売却する前に確認すべき8つのことを、売り先の選び方は売却先の比較をご覧ください。